私好みの新刊 20219

『うまれたよ! ヒラメ』(よみきかせいきものしゃしんえほん) 櫻井季己/写真・文 岩崎書店 

 大判で、見開きの写真がよく見える写真絵本シリーズである。記載文は全部ひらがなで低学年

児の読み聞かせにうってつけのシリーズである。シリーズには、セミ、バッタ、トカゲなど身

近な生き物がすでに41巻まで出ている。今回はヒラメである。

 ヒラメというと、よく食卓にも登場するちょっと変わった〈魚〉である。ふつう、魚類は頭の

中心から両方に分かれて眼がある。しかし、ヒラメやカレイは眼が体の上面に並ぶ。いったいど

のようにして、眼が体の上に二つ並んで着くのだろうか。初めから、体の上に着いているのだろ

うか。そういえば、ヒラメやカレイは海底の砂にもぐったりする底生動物だ。そういう底生動物

にとっては眼が上にある方がいいのか。なにかと謎の多い〈魚〉だ。

 最近は、魚の卵を人工的にふ化してある程度の大きさに成長するまで水槽で飼育して海に放

流するという〈栽培漁業〉が行われるようになった。おかげで、卵や稚魚が他の魚に食べられる

ことなく、たくさん生育できる。この本は、そういう水槽で映した写真がふんだんに使われている。

おかげで、鮮明で迫力ある写真が見られる。

 まず、最初の数ページで、水槽中に生まれた卵が映し出される。透明感のあるまん丸いきれい

なたまごだ。それぞれの卵になにか丸い〈核〉が見える。一日経つと、その小さな〈核〉をはさ

んで白い筋が見える。命のはじまりだろうか。2か半経つと、頭が見え出す。卵の中で体をのばし

て、やがてビューンと卵から飛び出す。体の両側に少しもりあがって、眼が出来てくる。18日目

立派な魚の形をしている。目は頭の両側についている。普通の魚と変わらない。29日目になると、

なんと方がの眼が動き出した。二つの眼は体の片側に並び始めた。というより、体が平たくなった

のか。写真ではわかりにくいが、二つの眼は、体の上に並んでいる。

なるほどカレイの形をしている。いよいよ、あかちゃんカレイは海に放流される。荒々しい海の

生活が始まる。                    20211月  2,200

 

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』 ニコラ・デイビス/    ゴブリン書房 

近年の生物学は大きく進化した。形態的特徴から内部的な遺伝情報を調べる時代になってきた。

また、今や細胞に含まれているDNA解析の技術が進化し、生物の進化系統樹も確立されてきた。

今や、生物学は〈分子生物学〉なしには語れない時代になった。 

さて、その内容を小さな子どもたちにどう伝えるかは難問である。簡単に、「生物には遺伝子

があって・・」と話しても理解は得られにくい。そこをこの本では〈生まれて育つ〉〈せっけい

しょ〉というごく普通の言葉で入っている。 

見開きで「すべての いきものが うまれて そだつ。」から始まる。すべての生き物は大き

くなり子孫を残すことが語られる。生育環境によって大きく成長の度合いが変わってくる様子が

語られる。まずは、砂漠の植物、乾燥地帯に生息するメダカ、乾燥地に生える植物などが出る。

北の海に棲む貝類は大きくなるのに500年もかかっているとか。いつまでも小さいカメレオン、

巨大に成長するマンボウもいる。成長する過程で変身する生き物もいる。植物や昆虫類など描

かれている。

いよいよ人間が登場する。初めは、おかあさんの中のちいさな点(受精卵)、だんだんと楽しく

成長していく過程がリアルに描かれている。さて、ここで「せっけいしょ」が出る。くねくねと

ねじれた4本の「えんき」(DNA)の入った絵である。4本の「えんき」が2本の糸に絡んでいる。

「〈せっけいしょ〉は、この4つの もじで かかれた あんごうぶんのような ものだ。」

「ひとつ ひとつの あんごうぶんが 〈いでんし〉だ。」と綴られている。

いきなりこういう図を子どもは受け入れるかどうかわからないが、DNAの図と鼻や髪の毛の形、

眼の形の変化とつなげられている。子どももイメージしやすいのではないか。

「にんげんは 2まんを こえる いでんしが ある。」と書いている。

最後に、たくさんの人が描かれている。それぞれ、「せっけいしょ」の微妙な違いで多くの人が

生まれている。最後には「DNAは みんなが おおきな かぞくなんだって おしえている。」

で結んでいる。

多くの生き物の絵が全体に細やかに描かれている。            2021 4  1,500 円 

 

             新刊案内9月